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第89回体験発表

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体験発表者

27歳 男性 無職
強迫性障害

体験発表

私の症状は強迫性障害です。この症状が起きるようになったのは私が16歳くらいの時です。15歳の中学3年生の時、受験に失敗して志望校に入れませんでした。
入った高校はあまりレベルが高くなかったのでまわりの生徒や学校自体が何か異様なものに感じ、学校に行くのが怖かったです。その学校は高2の11月頃に退学しました。
その学校に入って初めてかかったのが不潔恐怖でした。家に帰るとすぐに風呂に入らないと何も手につかないような状態でした。
その頃、父親と一緒に住んでいましたが、17歳頃から母親の実家近くにアパートで一人暮らししました。18歳の時にまた高校を受験し、年齢が遅れていたので公立にしか入れませんでした。症状がひどかったので親に無理を言ったりして困らせたり、まわりの生徒から変な目で見られたりしました。
不潔恐怖の他に雑念恐怖もありました。高2の初め頃、トイレで何度も手を洗ったり、うがいをしたりしている所を友人に見られ、冷たい態度をとられた事がきっかけで不潔恐怖はかなり良くなりました。
しかし高2の9月頃同級生の女子にある勘違いをされて症状が悪くなり、うつ病にもかかってしまいました。
その後、病院はいろんな所に行き、診察を受けていました。森田療法で入院したのはS病院が初めてでした。S病院では先生はよい先生でしたが悪い条件が続き、短期間で退院してしまいました。それから少しして三島森田病院を知り、入院しました。

三島森田病院に来て今は1年経ちましたが、私の症状は確実によくなっています。入院する前はスーパーなどに行くと人の目が気になっていつもビクビクしていました。私の症状は時間がたつと他の症状に変わっていったように感じられます。
私の今一番重い症状は何か手を出すにもおっくうでやる気が出ないことと、人の顔が自分に対して憤怒しているように感じられ、不快になることを気にするようになり、また人の咳払いが、自分に当てつけるように感じられるという症状です。この2つが今一番ひどいのですが、入院して1年も過ぎると、なぜかわからないのですが他の軽い症状はなくなっていました。

時々外出したりする時は特に良くなっていることがわかります。人が大勢いる場所でも不安や恐怖はあまりありませんでした。
私は最初S病院で入院し、有名な先生の下で診察を受けて入院していたので三島森田病院の先生にはあまり期待していなかったのですが、私の軽い症状が良くなったという事で考えが変わり、先生に感謝するようになりました。

あと、畑作業では指導員さんが指導してくださり毎日作業に出ているわけですが、指導員さんに対しても、最初は怖くて作業に集中できずいやな気持ちばかりでした。
時間が経つと指導員さんは私の何倍も偉い人だと気づくようになり、今は慕う気持ちになりました。こう何カ月も経つと私の具合が変わっているのがよく分かります。森田療法がどう役立ったかについては、私にはまだはっきりと分からないのですが、今は外に出ても人があまり気にならなくなったこと、人前でもなんとか話ができるようになったこととかが役立っているのではないかと思います。
回りの人を見ると私だけ特に内向的のように見えて少し苦しくなることがあります。森田グループのリーダーをしている人を見ると特に私と違って見えます。先生はそれを知っているせいか私にはしばらくリーダーをさせませんでした。しかし最近になってまたリーダーの順番が来るようになりました。リーダーは大変ですが、自分のペースでがんばりたいと思います。
また森田病棟のメンバーとは毎日御互いに協力し合い作業をしています。忘れていた事やできていない事などを譲りながらがんばっています。他の人たちも私と同じように病気を治すためにがんばっているので苦しいのは同じだと思います。
だから失敗していても咎めたりせず助け合っていく事が大事なことです。これからもメンバーと協力していきながら作業をしていきたいです。

講話

あなたは1年くらい入院しているわけですが、はっきり言って少し重症なのですね。ですから、ここまでいろいろ時間がかかっているのはやむをえない部分があると思います。

あなたの症状は、高校生の頃、「不潔恐怖」と「雑念恐怖」という強迫症状がありました。疾患名としては、国際的診断基準で言えば『強迫性障害』となります。しかし、他にも「人目が気になる」という症状、さらに「人が怒っている(憤怒の表情の)ように感じる」というような症状もありました。これらは『社交不安障害』と言われているものです。
さらに、「おっくうになる」というような症状もありましたが、これは『うつ状態』の一つです。
こうやって挙げると沢山の症状があって、いろいろな病気にかかっているように見えますが、現在の国際的診断基準では、この3つの状態が合併している、つまり3つの病気に同時に罹っているというふうに考えることになっています。しかし本質はそういうものではなくて、実はこれら3つは密接な関係があるのですね。

強迫性障害は、従来は『強迫神経症』と言っていました。そして社交不安障害は『対人恐怖症』と言っていました。そして、ここが森田正馬先生のすばらしいところですが、その強迫神経症と対人恐怖症を併せて、『強迫観念症』と呼んだのですね。
この『強迫観念症』というのは、意味としては、要するに強迫性障害であろうとも社交不安障害であろうともある強迫観念にとらわれているということです。これは、森田先生だけがそう呼んだ名称で、その後の森田学派以外の学者に使われることは殆どなくて、今に至ってはすたれてしまった用語です。
しかし実は非常に本質を捉えた言葉で、強迫性障害と社会不安障害とは非常に密接な関係がある、つまり、両方を合併する事はかなり高い率であるということです。そういう意味で、森田先生というのは、非常に卓越した目を持っていたと言いますか、まあ、何百人もの患者を観察しているうちに、強迫神経症と対人恐怖症には共通の土台があるということを見出したんですね。
共通の土台としては「思想の矛盾」などが挙げられます。また、うつ状態に合併するというのも良く知られていまして、統計的には強迫性障害の人でうつ病を合併する例は60~70%あるというふうに言われています。同じように、社交不安障害とうつ病の合併も60~70%くらいあるのではないかと言われています。
うつ病の方が非常に広い概念ですので、うつ病からみると強迫に合併する、あるいは対人恐怖に合併する人はそれほど多くないのですが、強迫性障害や社交不安障害の側から見ると、うつ病を合併する例が非常に多いのです。ということは、この3つが合併するのもかなりの割合になるはずだということになります。

さらに言うと、対人恐怖症として、「人目が気になる」とか「人が怒っているように感じる」というのは、対人恐怖の「加害性」、つまり「人に迷惑をかけていると感じる」という対人恐怖の一種で、これは『重症対人恐怖』という分類になります。つまり、対人恐怖症の中でこの加害性がある場合、ない場合に比べると少し重症と思われます。
重症対人恐怖は、欧米では、幻覚・妄想と区別がしにくい部分があるのではないかということで、統合失調症圏の中に入っているようです。
しかし、臨床的にみると重症対人恐怖の人と統合失調症の人はまたちょっと違うのですね。つまり、重症対人恐怖はこの症状だけ見ると妄想のような感じに見えるのですが、他に妄想はなく人格が崩れることも少ないわけですね。まあ、そういう意味であくまであなたは神経症の範囲内、しかしちょっと重症というところにいるということがわかります。

ここで、強迫性障害に論点を絞って話をしていきたいと思います。強迫性障害は英語で「Obssesive and Compulsive Disorder」と言います。略称でOCDと呼ぶのですが、直訳すると「強迫観念と強迫行為の障害」となります。
この英語の名称はそのまま疾患の特徴を表していて、強迫性障害には強迫観念というものと強迫行為というものが両方ある、つまりこだわりの考えと繰り返しの行動の両方があるということです。
ここで、神経症あるいは不安障害に属する「強迫性障害」には必ず強迫観念があるという点が重要なんですね。強迫行為がなくても強迫観念は必ずあるということです。
逆に、強迫行為だけあるという場合がありますが、それが精神遅滞の人の手を洗う行動とか、あるいは認知症の人の繰り返しの行動、それはあまり考えていないで行動するということです。
それに対して神経症圏の強迫性障害ではこの強迫観念というのが必ずあって、それに基づいて強迫行為をしているわけです。ですから強迫行為がない場合も強迫性障害というふうに呼んでいます。強迫性障害にとって強迫観念すなわちこだわりというのが重要な概念だということなのですね。

強迫性障害の治療は、他の神経症もそうですが、主に薬物療法と精神療法に分かれます。薬物療法としては、セロトニンの代謝異常を改善するSSRIというのを使用するのが一般的です。
SSRIにはどんな薬があるかと言うと、フルボキサミン、パロキセチンなどです。フルボキサミン(ルボックス、デプロメール)という薬が第一選択ですが、その薬が第一選択になっているのは最も純粋にセロトニンだけを改善する特殊な薬という位置づけだからです。
フルボキサミンは日本ではうつ病と強迫性障害に認められている薬ですが、アメリカでは強迫性障害だけに適応があり、うつ病には認められていません。実際、使ってみれば分かりますが、ルボックスは純粋のうつ病にはそれほど効かない薬なのです。他方、パロキセチンはうつ病と強迫性障害の双方に効果のある薬と思います。

次に、精神療法です。精神療法には精神分析など種々の治療法があるわけですが、私は精神分析は強迫にはあまり効かないと思っています。精神分析の大家からすればそんなことはないと言われると思うのですが、まあ、強迫性障害に対する精神療法としては、世界的に見ても今有力な方法は、「認知行動療法」という治療法となるでしょう。
認知行動療法は、認知療法と行動療法を組み合わせている治療法なのですが、特に行動療法というのは強迫性障害に対して効果的であると言われています。そして、森田療法というのも実は方法論的には認知行動療法と近いと言えますので、実質上は同じようなことをやっていると言ってもいいと思います。
しかし認知行動療法というのは1950~60年くらいから始まった治療法なのですね。そうしてみると1920年からある森田療法というのはむしろ認知行動療法の先駆けとなっている治療法だと言えると思います。最近欧米で、森田療法を認知療法の一種とみる向きもあるようですが、本当は森田療法の方が本家と言えるのではないでしょうか。

その中で、行動療法と森田療法の異同を説明しましょう。行動療法はいくつかの治療技法の総合的な体系なのですが、有名なのは「オペラント条件付け」ですね。高校生の頃習ったと思いますが、有名なのはパブロフの犬の実験です。犬に餌を与える時に一緒にベルを鳴らします。餌の時間にベルがなる、そうすると、段々と餌とベルを関連付けるようになって、ベルが鳴っただけで犬が唾液を垂らすようになる、これをオペラント条件付けと言います。
喘息とか他の内科疾患でも使いますが、徐々に慣らしていく治療法(「減感作法」)というのがあるんですね。段々悪い条件に慣れさせるという方法です。
同じように、パニック障害の場合なども、乗り物に乗れないような人に今日は「一駅乗ってみましょう」、明日は「二駅乗ってみましょう」というふうに少しずつ負荷を増やしていくという方法です。
しかし、これらは有名ではありますが、本当は最も有力だと言われている行動療法の手法は何かと言うと、「暴露反応妨害法」です。暴露反応妨害法というのは、わざと本人が嫌な事をさせておいてそれに対する気晴らしを許さない、そういう治療法です。
だから不潔恐怖の場合、汚い物にわざと触らせておいて、それなのに手を洗わせないということになります。暴露というのは、症状の起こりやすい条件にわざわざさらすという意味です。それなのに、その後は反応を妨害する、手を洗いたくなっても止めさせるという治療法です。
実は森田療法はこれと同じことを自然にやっています。畑に犬の糞があったとして、「水道は近くにないから畑作業を続けなさい、手は病棟に戻ってから洗いなさい」という指示になるわけです。そうすると、わざとというわけではないですが、不潔な物に触れてしまったとしても、それに対する手洗いを自然に食い止めている。
畑仕事をするという当たり前の自然の行動をする中で、暴露反応妨害法と同じ事をやっているわけです。だから行動療法と森田療法は非常に似ています。ただ、行動療法は人工的にわざわざする訓練、特に外来通院で行う訓練ですので、嫌な事をさせるわけですから、ドロップアウトも結構多いです。
それに比べると森田療法は入院をし、自然な環境の中で、他の人の目もありながらやっていくものなので家でやるのとだいぶ違う。やっぱり人目があると畑から逃げ帰ってトイレへ行くというのがちょっと恥ずかしい、そうすると暴露反応妨害法と似た方式がうまくいくという仕組みになっていると思います。

強迫性障害の治療は、一般的には以上ですが、あなたに関して見ますと、最初は薬物療法を好まなかったので森田療法だけやっていたわけです。少し重症なため、森田療法が空回りしてしまう部分が多かったのです。途中から森田療法プラス薬物療法というようになって、だいぶ不安感をなくすことに成功したわけです。
つまり、薬物療法の土台の上に森田療法という手法を取ることができるようになり、ここ2~3ヵ月だいぶ良くなったと思います。
今日の発表にもあったように、以前はとてもリーダーなどできる状態ではなかったのですが、何とかやっていってもいいような状況に徐々になっていったというのは、この薬物療法の土台があってその上で森田療法をやっているというおかげです。
ただ薬物療法だけですと気分が良くなるだけでそれ以上進歩がないわけです。しかし薬物療法を前処置として森田療法をしっかり行うことによってはじめて、普通の患者さんが森田療法を始める位置とスタートを同じにすることができるようになるわけです。
そういうわけで、あなたの入院は一年くらいになるのですが、本当の森田療法はここ2~3ヵ月ではないかと思います。ようやく最近になって森田療法が可能となる土台ができてきたということではないでしょうか。薬物療法によってある程度不安を改善し、そのことから、森田療法的な目的本位・行動本位の生活を送ることができて、それで症状全体が良くなったということです。
ですから、今後退院していった暁には、薬物療法を続けながら更に積極的にいろいろ行動していただくことで、さらなる進歩が期待できるのではないかと思います。

ぜひ、頑張って下さい。

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