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第67回体験発表

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ヘルシーレモンケーキ
ポテトステーキ
ホットエッグノッグ

体験発表者

56歳 男性 会社員
抑うつ神経症

体験発表

うつ病は通院しながらほぼ完治していたのですが、仕事の過重労働による疲労から不眠となってしまいました。
1ヶ月の休暇を取って自宅で静養していたところ、2週間後、突然脳血栓症で入院となりました。およそ1ヶ月で退院して、更に2週間の自宅療養をして、職場へ順調に復帰できました。
しかしこの間、将来のこと、近所とのこと、家のローンのこと等、気に掛けてしまい、伯母には「一度脳梗塞になると2度目もなりやすく重症になり、最悪の場合は車椅子生活になるかもよ」と言われ、悩んでしまいました。

お盆休みの10日間、色々の事を気にしながら過ごしました。
お盆休み明け後、再び出社しましたが、血圧の薬とうつ病の薬を飲みやっとの思いで出社する日が4日程続きました。
5日目の出勤途中、反対車線を走行してしまい、ものすごく怖い思いをしました。やっとの思いで職場に着きましたが、仕事が急に忙しくなり目の前が真白くなり、今までに経験のない症状になり、作業が全てできなくなってしまいました。
車で5分ぐらい離れた所にいる部長に報告すると、「帰ればいいじゃないか」と冷たく言われショックを受け、そのまま帰宅しました。

当時の主治医の先生に仕事を続けられるかどうか相談したところ、「考え方を変えなければ治らないよ。森田療法をやってみたら良い方に向くかもしれないよ」と提言されました。
パソコンを検索してみると三島森田病院が森田療法を行なっていることが解りました。

数日後に受診すると、一冊の本を渡され、この本をよく読んで、入院するかどうか家族で相談して下さいとのことでした。廻りを気にする苦しみから助かりたくて、それからその本を2日で読み終り、三島森田病院に入院することに決めました。
先生には「治るも治らないも本人のやる気次第です」と言われました。この言葉には驚きました。薬に頼って治療を続けていた私には意外なことでした。それは臥褥明け入院生活が始まってから解ることになります。

最初に味わった臥褥は、頭で物事を考えてばかりいる私には、辛い辛い毎日でした。3日目、4日目には、今何日目か解らなくなりました。
人間から離れ一人っきりになってしまい、閉塞感がありました。2日目のことだと記憶しますが、先生が来てくれて「いろいろ考え、悩んで心の膿を出すように」と指導がありました。その言葉が臥褥の意味を解らせてくれました。

環境の変化に弱い私は森田療法のメンバーに慣れるのに苦労をしました。毎日毎日が自分の神経質な性格との戦いで、「こうすれば、ああすれば」と頭で考えてばかりでびくびくしっぱなしのデイルームでの姿でした。
しかし日記に先生から答えが書いてくれてありました。「日記にはその日の行動を中心に書いて下さい」。この言葉が入院生活を一歩ずつ改善していくきっかけになりました。

まず朝9時からの共同作業で畑に出て種を蒔きました。ここで作業をさせてもらえる喜びと、またメンバーに信頼されるチャンスがいっぱいありました。まず使った鍬を洗うこと、そして掃除ができること、つまりメンバーのために役に立ちたかったです。
しかし無理をした翌日は血圧が上がってしまい、午前中は孤独に室内で板版画彫りをしていました。午後は、体調を整えて耕運機で荒おこしをやりました。それと畝作りの難しいこと、集中力と鍬を使うテクニックの指導を仲間から受けるのですが、理解力の悪い私には、自己流が先に出てしまいます。それを注意されるとムカッときては、反省して心を鎮め、それから無心になって懸命に畝を作っていると上手にできるときも有りました。

起床13日目、夜の眠りが浅かったのですが、昼間眠くても我慢して行動と作業は続け、ベッドに横にならないようにデイルーム又は廊下の椅子へ座っていました。
午後の共同作業に入ってしまえば、気持ちも集中できます。人間関係も、だんだん上手にいきました。
この時何日ぶりか久々に笑顔を出している自分に気付きました。このころから、行動によって気分を良い方へ向けることができることに気付きました。
そして私の場合、行動した後から発言すると相手に理解してもらえました。口先だけでは信用して貰えないのです。気分が軽くなったり重くなったりするのは口先だけの言動だったからだと、起床19日目の日記から気付かせてくれました。
「注意が自分の内面ばかりに向きすぎている、日記はその日の行動を中心に書いて下さい」と指摘が有り自分の内面に注意を向けるのをこの日からやめました。
そして今、目の前のものに没頭すればいいと解ってきました。ありがとうございます。
起床21日目、血圧が高くて共同作業も人並みにできなくて、気分はいらだち焦るばかりでした。体調はどうであれ先に行動と心に決めていると、以前より行動できるようになりました。
しかし慣れていない畑仕事で消極的になってしまうグズな自分にいらだち、心機一転して、行動だけでしか自分は変えられないと心に決め、毎日の共同作業に神経を向け黙々と作業を続けました。
起床25日目、森田療法は若い人でなければだめなのかなとか私には向いていないのか諦めかけました。しかし、ここで奮起して笑顔を作ってメンバーの中に飛び込んで行きました。
作業内容が解らないときはよく質問することにしました。1回質問して解らないときは、気分は恥ずかしいけれど、もう一度解るまで質問しました。翌日、信頼が深まったのかメンバーが私に笑顔で向き合い、共同作業が最後まできっちりできました。起床27日目です。

茶話会の調理担当になったときは、困惑してしまいました。「一人でかかえ込んでしまうのではないか・・」とか。行動する前から、行動を止めてしまう思考になりそうでした。
起床40日目に私の心の中に転機が来ました。調理の買い物のときに思い通りにならないことに腹立ち投げ出しそうになりました。しかし今回は、それを治療するために入院したわけですから、これをチャンスと受け止め、リハーサルそれから準備、そして本番へと楽しみながら仲間と一諸に進めていくという協力する雰囲気作りを勉強しました。
起床40日目ごろから、今回入院しての効果が表れ始めました。それも自分では気付かず、メンバーの中から「明るくなったね」と声を掛けられるようになりました。

又更には起床77日目から外勤(入院しながら職場に試し出勤)となり、目的本位に徹して、石にかじりついてでも復職すると心に決めました。森田療法で身に付けた行動中心の考え方を実施しました。
更に共同作業で身に付けたのは、「仕上げるまで諦めない、協力して仕事を続ける」ということです。今回入院して一番大きな収穫は、生きぬく力、生きる欲望に目覚めさせてもらったことです。これからは寂しく苦しいときには入院生活のメンバーを思いだし、その場面、その場面を乗り越えて行きます。

ここまで導いてくださった先生のお骨折りを、感謝しております。ひとつの作業を最後まで見届け厳しくしてくれた指導員様ありがとうございます。毎朝、ベッドまで来て下さった、看護師様方ありがとうございます。毎食栄養バランスを考えて下さって食事療法して下さった、栄養士様ありがとうございます。

森田のメンバーの方々、そのほかの皆さん方も、私のような者に対して親切にしてくださいまして、ありがとうございます。

講話

発表の中身もさることながら、あなたは入院の最後の方になってみるみるやる気が出てきて、外勤へ行って仕上がってきました。
これはあなたのまじめな努力です。他の若い患者さんに頭を下げて教わる努力はとても重要だったと思います。江戸時代から近代までは年上の者が年下の人に教えるのが普通だったとしても、最近では年上の者が年下の人に虚心担懐に教えられる場面も多いようです。以前、森田療法で六十過ぎの方ですが、年齢的には後輩ばかりの他の患者さんに頭を下げながら上達していった方もいました。
いずれにしてもあなたの発表がすばらしいのは、入院生活が充実していたためだと思います。発表では、悩み苦しみながらも、内面ばかりくよくよ考えるのでなく、行動に目を向けて実績を作って他人に評価される体験を積んでいった様子が克明に描かれていましたね。

うつ病は広い意味で気分障害ともいいます。うつ病圏は、気分に波のある躁うつ病と、気分が下がる単極性うつ病に分かれます。
最近のうつ病の分類はたいへん混迷を極めていますが、
①わけもなく悲しくなったというような、環境ではなくその人の素因が重要な内因性のうつ病と、
②その人の環境と性格があいまって起こる心因性のうつ病があります。
そして躁うつ病はほぼ百パーセント内因性だと言われています。
心因性のうつ病が森田療法をはじめ精神療法の対象になります。一般的には、躁うつ病つまり内因性のうつ病は薬物療法の対象であり、森田療法の効果は見込めないと考え、森田療法の対象にはしていないようです。

うつ病は一般の神経症とは異なり時期によって症状が変わります。
うつ病の極期の症状は、不眠、食欲不振、体重減少、思考制止です。これらは休養と薬で改善する場合があります。あなたの場合は食欲不振はありませんでしたが、思考制止はありましたね。うつ症状は改善しないと、遷延化、神経症化(体のあちらこちらの不調を訴える心気等)することがあります。
身体症状がなく、抑うつ気分、無気力だけの場合は、最近では「気分変調症」と言います。あなたの場合もそれに当たり、元来うつ病で身体症状があったのが、次第に神経症化したものと思われます。従来診断では「抑うつ神経症」と言います。

従来の抑うつ神経症、つまり、うつ病の神経症化、最近の言い方ですと気分変調症に森田療法が有効です。
あなたは脳血栓の発作が1回あり、ああでもないこうでもないと考えてしまった。森田療法を行うのは、だからああでもないこうでもないと考えてしまう場合です。だらだら遷延化した場合、気分変調症の場合、森田療法を行います。
あなたは心配性、心気的、人にどう思われるかを気にする傾向がありますが、それらは森田神経質と言えます。依存的な部分もありますが、これはヒステリー性格と言えましょう。

以前の主治医の先生に森田療法を勧められたのは、あなたが言っていたように神経症化、つまり考えにとらわれすぎて行動がおろそかになったからです。なぜなんだと考えていくと自信をなくす、解決策がなくて「どつぼ」にはまっていく、という悪循環の過程です。考えにとらわれすぎて行動がおろそかになっていくということです。
あなたの日記に対して「考えではなく、行動を書いてください」というコメントがありました。まさしくそのとおりです。私のオリジナルな言葉でいうと、「人にどう思われるかよりも、自分がどう行動すべきか」です。
まず行動して実績をつくっていく。後輩に頭を下げてむかっとくることがあっても、茶話会の時にみんなから協力を得られた。あなたとしては道が拓けました。
従来は、何もしないで人の厚意ばかりを当てにしていたから、期待を裏切られると自信をなくし、溶けこめなかったのです。森田療法で学んだのは、自分が率先して行動し実績をつくり、他人から評価されることにより、みんなに協力してもらうことができる、ということです。

行動して変化が起きたというわけですが、偶然変化が起きたわけではない。自ら道を切り拓いたのです。このあたりがあなたが森田療法で学んだことだと思います。
職場復帰後「職場は冷たいなぁ」と思うかもしれない。同僚に「何だ休んでいたくせに」と思われるかもしれない。
率先して行動することによっておそらく活路が拓けるのです。退院後も会社で、入院生活を思い出して歯をくいしばってがんばってください。
今後に期待しております。

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