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第72回体験発表

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ホットサンドウィッチ
レモンムース

体験発表者

39歳 男性 無職
強迫神経症

体験発表

私は野球の強い高校に進学し、野球部に入ったのですが、1年生同士の人間関係がうまくいかず半年でやめてしまいました。その後、通学の行き帰りに地元の駅で中学の友達と会うので、「あいつ野球をやめてだらしねーなあ」と思われているようで学校に行けなくなってしまいました。
それを父親に話したら、父も会社で対人恐怖になり森田療法の事は知っていたので、高校2年の3学期に森田療法の病院に3ヶ月入院しました。1年留年しましたが、退院してもよくならないので、今度は地元の病院に入院しながら学校へ行き、なんとか卒業する事ができました。

その後、まだ対人恐怖は完全に治っていませんでしたが、陸上自衛隊に入りました。入隊して2年位したら対人恐怖は治りましたが、それと同時に今度は確認癖が出てきました。そして中隊を移ってから「何か考えていた事があったな」とそれが不安で不安でたまらなくて、死ぬ思いでしたがなんとか任期満了まで自衛隊を続けました。
その後は何ヶ月かブラブラして、また確認癖が悪化して以前の地元の病院に1年くらい再入院しました。退院後、工場でアルバイトを半年間やり、半年間休んだ後に測量会社で働きましたが、人間関係に恵まれず1年でやめました。

「何で自分は神経症になったり、人生がうまくいかないのだろう」とか、「阪神大震災やいろいろな災害が自分の身にふりかかってきたらどうなるのだろう」などと心配になり、親に誘われてある宗教を勉強したり道場に通ったりし始めました。それにはまってこれは勉強しなければと思い、その後は合宿形式の講習会に何十回も行ったり、研修生を4回ぐらいやりました。
しかしその間に確認癖も相当悪くなり、また別の森田療法の病院に間をおいて2回入院しました。その頃から不潔恐怖も出てきました。あともう1回はうつ状態で短期間入院しました。

その後しばらくして病院を移り、クリニックに半年以上通ったのですが、状態がひどくなり、さらに別の地元の病院に入院しました。それから2年間、入院外来含めて通いましたが、先生がどう治して良いかわからないというので、三島森田病院へ行きたいと自分から希望しました。
三島森田病院に来る前は先生が私を入院させてもらえるのかどうか心配でしたが、来てみたら入院させていただいたので、喜びました。

臥褥中は、1週間の前半は、疲れていたのか良く眠れました。後半は、そんなにきつくはありませんでしたが、タバコが吸えないのが少しきつかったのと、「この入院で絶対に治すんだ」というプレッシャーがあり、そういう意味では気持ち的に大変でした。

臥褥が明けて1日目は、早々やる事がたくさんあり、症状もあって大変で、以前に森田療法を受けた所より厳しいなあと思いました。この病院にくる5日位前まで別の病院の一般病棟にいて、何もしないで一日中過ごしていたので、草むしりをするのも大変でした。

そして重作業期に入り、最初は乾燥室の使い方など色々と分からない事があり、覚えるのが大変でした。そして又それで疲れました。前に入院していた森田療法の病院で、内山先生の師でもある大原健士郎先生に「なるべく暇な時間を作ったらダメだよ」と教えられていたので、ここでも空いている時間があると、前にも読んだ大原先生の本なのですが、ほとんど忘れていたので又読んだりしていました。そうでない時は、ごみを捨てたりして自分でやる事をみつけていました。
日記は前の入院の時に症状が強くて書く事はできても読む事がほとんどできなくて、入院生活が長引いた痛い経験があるので、時間をかけて力を入れて書きました。

私の家族は父も母もだいたい70歳ぐらいで、妹は脳梗塞で倒れて片腕が動かなくて、兄は肝臓を壊していて、私は何回も神経症になって入院ばかりしていました。
自分には手に職がないので、神経症を治さないと親が死んだら自分はホームレスになってしまうと思っていました。それで問診の時には多分目をギラギラさせながら分からない事を先生に質問していたと思います。

最初のうちは、私は大原先生に習ったネオモリタセラピーの森田療法のやり方しか知らなかったので、この病院のやり方に抵抗を感じました。
例えば、ネオモリタセラピーはレクリエーションが主で、陶芸を作ったり、歌を歌ったり、プラモデルを作ったり、近くの公園に行ってキャッチボールやバドミントンをしたり、絵画療法をしたりしていたので、結果を求められませんでした。
大原先生に教えられた通り、いかに自分がその物になりきり目的本位にできるかにかかっていたので、結果が出せなくても自分が損をするだけの事でした。
三島森田病院では即結果を求められる傾向があったので、これは目的本位とは違うのじゃないかと思いました。

それで指導員さんや先生や、看護師さんにその事について相談したりしていました。土曜日と日曜日は洗濯や髭そり等身近な事をやり、時間が余ったら、大原先生の本をじっくりと読んだり、日記を一番最初から読み直したりして、なるべく暇な時間を作らないようにしていました。
又、入院2ヶ月位したら、毎日畑作業で息が詰まってきたので、野球のグローブとボールを持ち一人で壁にぶつけたり、マンガを読んだりして気分転換をしました。
畑作業は、毎日、指導員さんに怒られないようにやっているのが精一杯でしたが、夏で暑いけれども、ホームレスになるよりもましだと思い、死ぬ気になってやっていたら、暑さもそれほど苦ではありませんでした。それと問診の時は、日記のコメントで疑問に思う事や、ある日に気づいた事などをメモしておいて質問して、いつもだいたいそれだけで終わってしまいました。

だいたいこれが4ヶ月間やってきた事です。最後に内山先生をはじめ、指導員さん、看護師さん、スタッフ一同の方には色々と面倒を見ていただき、本当にお世話になり、又、感謝しています。色々とありがとうございました。

講話

せっかくですから、あなたが触れた「ネオモリタセラピー」についてお話しようと思います。
ネオモリタセラピーの提唱者である大原健士郎先生は、森田療法のメッカである慈恵医大出身です。森田正馬先生第一の高弟高良武久先生の弟子にあたります。初代森田療法学会理事長として、森田療法中興の祖とも言うべき存在と私は思います。
昭和49年、浜松医大の初代教授として赴任され、平成8年に退官されています。もともとはうつ病の専門家として有名であり、自殺についての論文を多数発表されています。浜松医大に赴任されてからは特に森田療法に力を入れておられました。
浜松医大では創立以来森田療法を行っています。森田正馬先生の行った「森田療法原法」は非常に優秀なものですが、現代においては、設備・人員等やりにくくなっている状況があります。大原健士郎先生は「森田療法原法」を生かしつつも、人員・設備等について現代に合うようアレンジしてやっていく「ネオモリタセラピー」を提唱しています。
具体的には、行事に作業療法だけでなく、レクリエーション療法、絵画療法、音楽療法など多様な治療を組み合わせて行うものです。

森田正馬先生が偉大であるが故に、既に森田療法は完成されたものと見る考え方があります。しかし大原先生は、森田療法は宗教ではなく科学である以上、より改良を加えていくべきであるとおっしゃってます。この考え方に基づき、ネオモリタセラピーは生み出されました。大原先生によれば、森田正馬先生死去後の森田療法は、すべてネオモリタセラピーであるとも言えるとのことです。

ここでは私が15年ほど前まで在籍していた浜松医大のスケジュールについて紹介しましょう。それは次のとおりです。
<一週間のスケジュール>
   午前           午後
月  教授回診        レクリエーション
火  作業療法(畑仕事)   音楽療法
水  集団療法         (休)
木  レクリエーション    絵画療法
金  作業療法(畑仕事)   レクリエーション
土  ビデオ鑑賞・読書     (休)

三島森田病院では畑作業と掃除が主であるというシンプルな行事予定になっているのに対し、浜松医大ではレクリエーションや芸術療法などを取り入れたバラエティに富んだ行事予定になっています。
三島森田病院の森田療法は比較的原法に近いと思われます。それに対し、浜松医大のネオモリタセラピーは、子供の時から個室を与えられるなど物質的に豊かに育った現代の若者がついてこられるようにとの意図もあるように思います。
しかし、三島森田病院の森田療法も浜松医大のネオモリタセラピーも、森田療法としての根幹は同じであり、要は「症状あるがままに」、「目的本位に行動する」ということです。方法論の違いがありますが、それぞれ一長一短と思います。

さて、ネオモリタセラピーのやり方では結果は求められないが、森田病院の森田療法では即結果を求められるという違いがあるという、あなたの見方にお答えしましょう。
結論としては、両者には大きな違いはないと考えられます。例えばネオモリタセラピーで、「一生懸命聴く」とか「良い絵を描く」というのは際限のないことであり、点数はつけられません。つまり結果は求められません。しかし没頭してやっていくことについては重要視されます。他方、森田病院で「きゅうりを10本とってくる」というのは、具体的な結果を求めているとも解釈できます。ある意味では、結果(ノルマ)を求める方が森田療法的に良いかもしれません。つまり具体的目標をもつことによって、より目的本位になれるのではないかと思います。
しかし、だからといって10本取れなかったらクビというのではありません。結果だけを問題にしているわけではありません。森田療法ではあくまでプロセスを大事にします。つまり、いかに没頭したかが大事で、結果というよりプロセスを重視するわけです。
そういう点では原法もネオモリタも同じです。ネオモリタセラピーでは、いろいろな事柄に目標をもってやっていきます。ここ森田病院では、畑作業というシンプルな目標をもってやっています。しかし、2つはプロセス重視という同じ理念でやっていると言えましょう。

ですからあなたも、「プロセス重視。一生懸命やる姿勢が重要である」との観点で、残りの入院も、退院後も森田療法的に精進して頂きたいと思います。

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