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第74回体験発表

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体験発表者

30歳代 男性 会社員
対人恐怖症

体験発表

僕が神経症になったのは複雑な家庭環境と持って生まれた素質と幼弱性が結びついたと思います。幼い時、祖父と母の問題があり、文句を言ったり悪口を言ったりするのを聞いて育ちました。両親は僕には甘かった様で、姉から「弟には何も言わないのに私には厳しい」と言われた事があります。依存心が強く発展向上心も強いという矛盾する性格が形成されたと思います。

小学生の時、「勉強に集中できない。何か病気でもあるのでは」と悩んだりしました。かなりの落ちこぼれだったので、高校進学もやっとでした。高校卒業後は会社に就職し、みんなに助けられて勤めていました。

5年位前職場が変わった時、後輩に「しっかりして下さい。何年会社に勤めているんですか」と言われ、劣等感と悔しさもあり耐えられなくなってきました。地元の心療内科に通い、カウンセリングを受けたり、夜眠る前に睡眠薬や抗不安薬を服用して、会社に行っていました。うつのような症状もあったので、診断書を書いて貰い会社を休みましたが、対人緊張から逃げてしまったんだと思います。休んでも結局家でプラプラするだけでした。

3ヶ月位休み会社に復帰しましたが、自信が無く一言もしゃべらない様になってきました。会社のカウンセリングを受けた時、心理学の本を読んだ方が良いと言われ、森田療法の本を見つけ、三島森田病院の事が分かりました。

初めて内山先生に診察してもらった時、森田神経質に近い症状だと言われました。しばらく会社には行っていましたが、ある時今日も怒られるかと思うと会社の駐車場から降りられなくなり、産業医に「適応障害になっている。休養が必要だ」と言われ、三島森田病院に入院しました。

臥褥中は本当にこれで治るのか不安になり、会社の事が気になったりイライラもしましたが、それほど辛くはなかったです。

作業期に入り、なんでも完全にやらなくてはダメだと思い気合だけは入っていました。診察の時内山先生に「自分から周りに、とけこめないので、辛い」とか「僕は意志薄弱性では?」と聞いたりしました。「自分を意識せず、与えられたことを淡々とこなしていく事です」と言われました。
また農作業をやって、本当に良くなるのかと疑問に思い、看護師さんに「畑仕事に出たくない」と言ったりしました。病棟師長さんから「森田療法をやっている以上はがんばって作業に出るようにしてください」と言われました。いやいやながら作業に参加し、森田グループの先輩の話を聞いて、みんなだって大変なんだと気持ちを入れ替えました。
日曜日はボーッとしている事が多く、日記指導で「仕事を探して行動しましょう」と注意されました。

1ヶ月経ち外泊が許可された時、用事もないのに外泊してしまい、自宅に帰り時間を無駄にしてのんびりしたので、緊張が切れて病院に戻るのが遅くなったり、雑念が出て作業に集中できなくなりました。雑念を振り払う事に意識が集中して、それをみんなに悟られるのを恐れ、余計に作業に集中できなくなり、指導員に怒られはしないかと人の顔色を気にしたり、自分の表情がこわばっていないか気になりました。

診察の時内山先生に、「たいした目的もなく外泊するからだ。誰もあなたの顔色なんか見てないよ。アナウンサーじゃあないんだから」と言われました。「100%でなくてもいい80%でも、70%多少能率が下がってもいいから、症状を恐れずに作業をすること。そうすれば対人恐怖はもとより雑念の方も恐れないようになる」と言われました。「明日の作業では泣いても、顔がこわばっても、がんばって、作業しよう」と思いました。

しばらくして、「緊張感が続く訳がないから、雑念が出てもあたりまえだ」と思い、雑念を気にしないようになりました。入院した当時は、鈍重臭い自分がいやなので、何処と無くカッコ良くやろうと考えていました。診察の時、「別荘とクルーザーが欲しい」と言ったりもしました。内山先生に、「あるがまま行動するように。欲はあっても良い。でもあなたの考え方は、オールオアナッシングではないか」と指摘されました。

入院して2ヶ月位経ち自分本来の性格に戻ってきましたが、声が大きくなってきたと、看護師さんに言われたりしました。茶話会調理担当は何を作って良いか迷い、最終的には簡単な料理にして良かったと思います。特に看護師さんと、女性森田グループの助けがなければ何も出来なかったです。

竹細工は、みんなと同じ物を作ってもつまらないと思い、茶話会用の看板を作っていますが、自分の茶話会までに出来るかわからないです。今までいろいろな作業を体験し、考えすぎてわからなくなる前に行動していた方が良い事がわかりました。

入院して3ヶ月経ち両親にまだ退院できないのかと言われ先生に話して、良くなってきたからと少し早目に茶話会体験発表をする事になりました。「入院した当時の方が、気合いが入っていたので、行動が出来ていたように思います」と先生に言ったら「あなたは主観的な考え方が強い。入院した当初の方が良かったと思うのは自己満足。人から見れば今の方が良くなっている。神経質者は、ハラハラドキドキしながら行動するしかない。会社に復帰する時、自信が無くても、周囲には大丈夫と言うように」と内山先生に言われました。

最後に、内山先生、看護師さん、指導員さん、森田グループのみなさんに感謝して、がんばって行きます。どうもありがとうございました。

講話

どうですか?緊張しましたか?あなたは対人恐怖症ということでしたが、特別震えることもなく立派に読めていましたよ。緊張するだけなら誰でも人前では緊張するものです。

さて、今日はあなたの発表にも出てきた森田神経質という言葉について学びます。森田神経質という言葉は森田正馬自身は使っていません。森田正馬は単に「神経質」と言っていました。
森田神経質には2つの意味があり、一つは森田療法の奏効する神経症という意味です。もう一つは森田療法の奏効する神経質性格という意味です。
学問的には森田療法の奏効する神経症というのは病名、森田療法の奏効する神経質性格というのは性格になります。DSM-Ⅳでは病名を第一軸、人格障害(性格の異常)を第二軸として記述します。森田療法では病名、性格を合わせて森田神経質とします。一緒にするのは、森田療法では病名、性格が渾然一体しているからなのです。

1.病名としての森田神経質

森田正馬は森田神経質を①強迫観念症、②発作性神経症、③普通神経質の3つに分類しています。神経症の診断には森田とは別に従来診断、国際的診断(DSM-Ⅳ、ICD-10)があります。
① 「強迫観念症」は従来診断名だと強迫神経症、対人恐怖症、国際的診断名だと強迫性障害、社会恐怖(社会不安障害 SAD)となります。
② 「発作性神経症」は従来診断名だと不安神経症、国際的診断名だとパニック障害となります。
③ 「普通神経質」はその他の神経症にあたります。国際的診断名では身体表現性障害に相当します。たとえば頭重感、神経症性不眠症、胃腸神経症(胃部不快感等)などがあります。

2.性格としての森田神経質

森田神経質は以下のように分類されます。

  1. 内向的、内省的、理知的、感情抑制的
    内向的…友人が少ないとか人見知りするという意味ではありません。内側に向く、つまり自分自身に関心があるという意味です。わが身かわいさが人一倍強いとも言えます。
    内省的…内側を省みる。自分自身を常に反省する力があるという意味です。
    理知的…ある程度の以上の知能(大体IQ80以上)があるという意味です。
    感情抑制的…感情を抑制する。感情抑制的の反対語としてヒステリーがあります。
  2. 繊細、過敏、心配症、完全主義
    いわゆる神経質ですね。
  3. 向上心、欲が深い、症状に葛藤がある
    森田の言葉でいえば「生の欲望」にあたります。これは症状に陥る原因となっているわけですが、これはまた森田療法の治療を進めていく上での原動力になります。

以上述べた性格はあなたにも当てはまることが大いにあると思いますね。発表の中であなたが言っていた「依存心もあるけど、向上心もある」(向上心、欲深い)、「会社の駐車場で車から出られなくなってしまった」(心配症)、「作業に何でも完全にやらなければ…」(完全主義)などが当てはまるかと思います。
また「森田の先輩の話を聞き、自分だけじゃないと思う」ということから自分に関心が向くという内向的に当てはまるかと思います。このように、あなたの性格は森田神経質に属すると言ってもいいのではないかと思います。

他方、「幼少期、お姉ちゃんに自分だけ可愛がられていて依存的だった」からは未熟的、依存的、また「別荘とクルーザーが欲しい」からは虚栄的という性格も窺えます。このような性格は「ヒステリー性格」と言われます。

つまりあなたの場合、森田神経質に若干ヒステリー性格が混じった性格と思われます。そうした性格を基盤として、社会生活を送っていく中で劣等感と自信欠如をきたし、症状が出現していったと考えられます。

さてあなたは「入院当初より今の方がだらけている」と言っていますが、これはあなた個人の気分、つまり主観的な問題です。しかし、実際は作業や対人行動も客観的に見れば入院当初よりしっかりできています。「鈍重が嫌だ」と言っていますが、鈍重でいいんです。鈍重であることを認めた上で進歩していけばいいんです。

気分本位という言葉がありますが、気分を問題として行動しないことを意味します。その意味では、あなたはしっかり行動しているから気分本位ではありません。しかしあなたは自分の状態を気分の良し悪しで判断する傾向にあります。すなわち自己満足です。
対人恐怖になるのは世の中で他人から認められたいからです。認められるためには目的本位の行動を取らなければなりません。行動は外見、実績で評価されるものです。ですから、自分の状態については気分の良し悪しでなく行動の良し悪しで判断しなければいけません。

退院前ははなはだ不安でしょうが、森田でしっかりやれたんだという実績をもとに、社会に出てさらにひたすら実績を積むことで徐々に楽になっていくはずです。
楽になるのは一番最後なのです。何年もかかるかもしれません。それでも症状にかまわず行動していくことです。
楽になるというのは「ああ楽になった」というより「そういえば前よりはマシ」くらいのものです。森田療法を続けておけば、長い目で見ればあなたの対人恐怖も必ずよくなっていくはずです。

これからも鈍重に行動していってください。

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