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第78回体験発表

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ホットケーキサンド
サラダ(スナック・さやえんどう)
紅茶

体験発表者

22歳 男性 無職
強迫性障害

体験発表

神経質なものを感じ、症状となって現われだしたのは、たぶん高校生の時だと思います。
従弟とテレビゲームをしていてサッカーの選手を自分が決めるのにどの選手をどのポジションにするか過度に神経質になってわからなくなってしまいました。遊んでいて嫌になり、嫌ですまなくなり確認行為が始まりました。

そのうち確認行為をしている事に嫌気がさし、心は疲れてしまい、抑うつ気分に陥っていきました。今考えると、根っこは元々あった几帳面な部分なんじゃないかと思います。
現状に耐えかねた僕はボロクソに泣きながら発狂して母に告白しました。母の勧めで地元の精神科病院に行き、その結果「強迫性障害」と診断されました。

最初はただボーとした状態で受けとりました。ですが、症状が酷くなっていく事で自分が精神障害者であると実感しました。その後は何をするにも症状を先に感じてしまい、だらけて寝ているだけの生活が続きました。
そのほか、ここに来る事の決意にもつながった症状に、ある一人の男性に対してだけに生じる潔癖症があります。

そして、親のすすめで、ここ三島森田病院に入院、「臥褥」に入りました。
最初、自分は「入院」という事に対し抵抗感を持ち、「一週間寝た程度でよーなりゃー世話ねぇーつーの」といった気持ちがありました。それに、臥褥の事もあまり理解せず入院したので、不安で気持ちがいっぱいでした。

臥褥一日目、よく眠れました。
二日目、特に変わったことはありませんでした。
三日目、今までの症状に対する雑念が酷くなり、気分は最悪でした。それでも負けまいと、ベッドの手すりをぎゅっと握り締め、歯が砕けるんじゃないかと思うぐらいくいしばり、周りには聞こえないよう泣いていました。今までの症状に対してくだらないことに悩んでいたことが情けなかったです。説明がつかないくらいいろんな思いがありました。
しかし五日目、何が起きようとも自分をはりつけの状態にしてくれるので雑念が徐々に薄れていき、気持ちが楽になりました。
七日目、離褥前には症状に対する雑念がほとんど消え、「臥褥ってスゲェーなー」と、思いました。

重作業期に入り、がむしゃらに作業に没頭し、よく動いていました。「臥褥」で得たことが大きかったのか、症状に対する考え方が変わり、何だか盃を交わした「五分の兄弟」のように間柄が変わっていきました。なので、初めての畑仕事も苦じゃなく、わからない事もわからないながらに作業に没頭できました。

また週に一度の集団療法を通して、「森田療法」は症状が出ようが出まいがあるがままに行動するということ、また症状あるがままの自分が自分であったことに気づかせてくれました。
それからは、自然に触れ、作物を育てることで、生、命の尊さを学びました。ただ純粋に農作業が好きにもなりました。今までの自分はマイナスな行動ばかりしていたので、ここ森田の入院生活は、自分を「ゼロ」に立たせてくれました。

そこには森田病院で働いている方々やメンバーのみなさんの支えがあって実現したものです。本当に感謝しています。ここで学んだことは、とても文章に書き尽くすことのできない経験でした。
ありがとうございました。

講話

非常に短い文章ですが、中身の濃い体験発表でした。と言うか、体験発表の文章よりもあなたの入院生活の実体験の内容が濃かったのではないかと思います。

あなたの入院森田療法の特徴は臥褥でいきなりガラリと変化したということです。臥褥は森田療法の一つの技法に過ぎず森田療法の全てではありませんが、その意義は非常に大きいと言えます。
臥褥という特異な体験は入院森田療法と出会わなければ普通の人にはほとんど体験できないもので、体験したすべての人にとって一生忘れられないものでしょう。
森田正馬はその著書の『神経質の本態と療法』において、臥褥の意義について

  1. 心身の安静 …色々な刺激から解き放たれる
  2. 疾患の鑑別 …臥褥をすれば他の疾患と区別できる。統合失調症の慢性期、うつ病の場合はそのまま変化がおこらない。神経質の場合は居ても立ってもいられなくなる。統合失調症やヒステリーの一部(拘禁反応と呼びます)では幻覚妄想をきたすことがある。(なお、現在では疾患鑑別の目的で臥褥を行うことはなく、心理検査等によって診断をつけてから臥褥に入ります)
  3. 「煩悶即解脱」を起こす …悩みに悩みきるとふと楽になる状態を起こす。(臥褥中にこれが起きる人は10~20人に1人くらいの割合でしょうか。神経症の場合は思いきり悩めば苦しんだ末に回復するものです)
  4. 無聊を起こす …退屈になる状態を起こす。行動したいという気持ちを起こさせる。(これにより次に行う作業療法にスムーズに導入されます)
    と述べています。

臥褥は、典型的なタイプでは安静期 → 煩悶期 → 退屈期という変化が起きることが普通です。そのうち、退屈期は作業療法につなげて目的本位の態度を形成する上で重要なものです。

さて、あなたの場合、臥褥中に劇的な心境の変化があったわけです。悩みに悩みぬいた末、突然ふっと楽になりました。「臥褥でよくなった」とあなたは実感したわけですが、これこそまさしく上記③の「煩悶即解脱」が起こったと言っても過言ではないでしょう。

体験発表の中であなた独自の視点が一つありました。「臥褥を通じて、症状が杯をかわした兄弟のような間柄になった」という部分です。分かりやすく言うと「臥褥を通じて症状と友達になった」ということでしょうか。「症状と共存」と言ってもいいかもしれません。
「症状を無理やり撲滅するのでなく、症状を抱えつつも自分らしく生きていく」という森田療法の考え方は、がん治療などにも通じるすぐれた治療理念であると思います。あなたにとって、この「症状と共存」の考え方も煩悶即解脱により直感的に理解されたのでしょう。

あなたは入院前に強迫性障害と言われ、劣等感を持ったことが問題でした。神経症は症状があることで自分を病人視します。そして症状を訴えていくうちに他人からも病人視されます。その結果、だんだん劣等感が起き自暴自棄になります。
しかし森田療法を勉強すると、「症状はあるがままに」ということを学びます。つまり、症状があっても健康的に生活できるということを肌で感じることが出来るようになります。

あなたはこのことをマスターしました。「症状と共存」、「症状あるのも自分」というのが森田療法の考え方です。あなたは森田療法を通じて、症状があっても健康的に生きられるという自信をつかみとっていき、劣等感を克服することができたのです。

あなたは頑固な面が強いと思われますので、今後は職人気質というか、その気質を生かした仕事に就くのが良いのではないでしょうか。

今後の活躍を期待しています。

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