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第65回体験発表

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さつまいものヨーグルトサラダ
パイナップルクレープ

体験発表者

46歳 男性 銀行員
強迫性障害

体験発表

1.病気の起始及び経過

私は幼少の頃より、ある課題を与えられると何が何でも万全を期して結果を追い求め、自分で満足できる成果物(結果)ができないと何度でも繰り返し、十分満足のゆく成果物が出来て初めて「心が落ち着く」というタイプの性格でした。この性格は現在も変らず持ち続けています。
大学を卒業し、金融機関に就職し、2年間支店の営業を経験した後、本社勤務になりました。24歳の頃です。以来今日まで本社勤務が続いています。主に企画畑を歩いてきましたが、いずれの部門においても金融機関の仕事は激務であり、毎朝5時に起き6時前には家を出て会社に向い、仕事が終わるのが夜11時頃、その間食事は一切取らず休息時間もあまりなく、食事は夜帰宅後まとめて食べて寝るという生活を10年以上もの間続けてきました。

しかしこの間仕事の量は増加の一途をたどり、質は高度化と精緻化を求められる様になり、体と心にかかる重圧は想像を絶するものがあり、ついに35歳頃から体調を崩すようになりました。更にその後、「心の力」がなくなり、何もやる気が出なくなり、初めて心療内科にかかったところ「うつ病」と診断され、以来この病気と薬だけで戦って来ました。
この間、幾度か自宅療養を試みましたが、結果はいつも芳しくなく、ついに今から8ヶ月前より地元の病院に入院し治療に専念する事に致しました。その甲斐あって、「うつ」状態は2ヶ月ほどたつと快方に向かい始めました。

しかし、ちょうどそんな頃、認知症の老人とたまたま入浴時間が重なり、便失禁という私にとってとうてい耐えきれない最悪な出来事に遭遇してしまいました。私はこの極度の不潔状態に遭遇した時以来、この出来事が頭から離れず、逆に入浴そのものに対して恐怖感を覚えるようになり、ついには様々な事に対して自分の意志ではどうする事も出来ない程苦しい強力な強迫症状を覚えるようになってしまっていました。
先の病院に入院し「うつ状態」は改善に向かいましたが、今度は「強迫症」に苦しむ事になってしまったのです。

2.三島森田病院への転院

先の病院を退院した後、「強迫症」の症状があまりにも悪かったため、当病院へ直ぐ転院し、入院治療を受ける事になりました。

3.森田療法による効果・成果

森田療法による私の治療期間は現在約3ヶ月目に入っていますが、私の当病院への入院目的でありました不潔に対する「強迫性障害」(特に手洗いと髪の毛にかかる洗浄)につきましては、今現在その症状は相当に軽くなり、不潔恐怖感は「不潔恐怖」として私が感じていたほとんどの「不潔対象物」に関して、「不潔意識」を感じない程度にまで低減し、私自身が期待していた森田療法による「現実的な効果と成果」を身をもって体験しました。
したがって、森田療法による効果や成果に関しては、「強迫症になる以前のレベルまで回復した」と感じることが出来ます。

4.なぜ森田療法によって「神経症」が癒されたのか。

では何故、「森田療法によって神経症が癒された」のでしょうか。私は次のようないくつかの要因を考えます。

先ず、3ヶ月を経過した入院生活による規則正しい生活リズムの定着。
患者同士で分担し合う朝・夕に行う個人作業、そして毎日繰り返される「共同作業」。これらの行動を日々繰り返す事により、また患者同士の挨拶や軽い会話などが相俟って、患者一人々々の生活に固有のリズムが刻み付けられるのです。このリズムを森田神経症「患者」のみならず「医師」、「看護師」の皆さん、そして森田療法を成功に導くか否かという重要な鍵を握っている「指導員」のそれぞれが共有し、この四者がそれぞれの立場から一つに調和し合う事により、本来的に人間に備わっている「自己回復能力」が発現し、神経症に対する治癒能力が作動し始め、自然な回復作業が体の中で始まっていくのではないかと、医療に携わっている者ではありませんが、自分なりに考えてみました。

また、別の角度から考えてみたところ「森田療法」とは単なる医学的な治療法ではなく、患者の「生活態度」そのものの健全化を図り、心を陶冶する事により「生」(生きること)に対する「執着心」を毎日感じさせる療法の一つでもあると考えます。

更に、私自身の努力として、敢えて恐怖を感じる嫌なものから逃げずに扱ったり、手洗いを極短く済ませたりして耐える行動を自らの意志によって実行した時期も有りました。

5.森田療法とは医学的治療であるのか。

私自身、森田療法を始めた初期段階では、「これって医学療法?」と思うことがしばしば有りました。森田療法によって神経症を治療した経験のある方であれば、おそらく私と同じ事を考えた方々も少なくはないのではないかと思います。

しかし、この治療方法を毎日継続している内に「この治療方法は、『突然、自分の周り360°どこを向いても刺激を感じる開放空間から、右も左も意味をなさない閉鎖空間へ入れられ自分の思考を整え、その後この空間から開放された時からは、思考をも二の次になるような行動を重視する』一種のショック療法であり、立派な医学療法だな」と感じるようになりました。

6.森田療法とは家庭に密着した生活医療。

また、森田療法を3ヶ月間続けてきた感想を正直に述べますと、「森田療法とは、一般的な生活態度そのものであり、何も特別な事を処置する医療ではない」と感じました。

人が生活を続けていく上で、必要な掃除・洗濯等、「生活態度」そのものを毎日訓練し、生きると言う事に対して、日々、新たなる執着心をいだかせ、瞬間々々の『生』(生きること)に対して感謝を持たせ、また、『生』に対する力と喜びを与えるカンフル剤的な効能を与えるものとも感じられます。

7.「日常」を豊かにする森田療法。

また、私が感じる森田療法とは、万人に対して毎日襲ってくる「日常」という避けては通れない「マンネリズム」に対処できるだけの「体力の準備」と「心の平静さ」を整えてくれる良薬でもあると感じられます。

以上、森田療法に関する体験と私見を語らせていただきましたが、何かお役に立てるものがございましたら幸いです。なお、今回の入院に際して「おとうさん、体を完全に治して帰ってきてね」と言って送り出してくれた長女にこの「体験発表」をささげます。

講話

体験発表ありがとうございました。素晴らしい発表でしたね。普段集団療法の時に鋭い質問をしてくれるあなたならではの発表でした。原稿の読み方は語り掛けるような口調で良かったです。内容は前半は病気で苦労した話ですね。後半は、体験談というよりは学者のように外から森田療法を観察した文章でまとめられていて感心しました。

あなたの病気は最初「うつ病」と診断され、その後「強迫性障害」と診断名が変わりました。うつ病と強迫性障害は普通別の疾患とされていますが、実はこの二つは根の方で繋がっているのです。うつ病というのは、
①躁うつ病と呼ばれる、躁状態とうつ状態を繰り返す型、
②単極性うつ病と呼ばれているうつ状態のみが起こる型、
③抑うつ神経症と呼ばれるもの、
と幅が広いです。あなたのうつは②でしょう。

うつ病の原因としては脳内神経伝達物質の一つであるセロトニンの代謝異常と言われています。なぜこのようなことが言えるかというと、セロトニンに関係する薬がこの疾患に効くのでこのような見解となっているのです。セロトニンに関係する薬に、SSRIというものがあります。この薬が効く疾患は、
①うつ病、
②強迫性障害、
③パニック障害、
③社会不安障害(対人恐怖症)などです。つまりはこれらの疾患はいわば親戚同士のようなものであると考えられています。

以前からうつと強迫性障害の合併は知られていました。が、昔はうつ病と神経症は別のものと考えられており、もっと昔、森田正馬の時代は同一のものとされていて、「神経衰弱」と呼ばれていました。
その後研究が進み、現在の分類ができました。つまり、状態像は違うが根は一緒の疾患といえます。
あなたのうつ病は昔の分類で言うと「反応性うつ病」といわれているもので、これは主として環境的原因で起きるうつ病です。日本人の場合は中高年の男性、特に多忙な会社員や中小企業経営者などの人たちに多いと言われています。

あなたの体験発表の後半での注目点は、「森田療法とは生活リズムをつくることである」、「生活リズムを作る上で患者同士、主治医、看護師、指導員、毎日のスケジュール、これらは全て必要な役者であり、これらを用いて自己回復能力を動かすことが森田療法である」と言っている部分です。この自己回復能力は神経症の人に特徴的なものです。

森田療法では患者を「元来健康なもの」として扱います。これは森田正馬の性善説に基づいた「神経症の人は元々悪いところはない。たまたま悪い癖がついただけであるから、正しい癖をつければよい」という考え方から来ています。
これに対して行動療法では患者を「病者」として扱います。森田療法はプラスの面を見つけて伸ばす、行動療法はマイナス面を修正する、という違いがあります。
あなたのいう「自己回復能力」というのは場を与えられれば、あとは自然と良くなるということを意味していると思います。私の師である大原健士郎先生が患者さん宛の色紙に書く代表的な言葉に「健康人らしくすれば健康人らしくなれる」という言葉がありますが、要するにこれは「病気であっても健康人らしくしなさい」と言う意味なのです。
この病気はセロトニン異常という面がある一方で、健康な部分を伸ばすということも治療上有効であるということだと思います。森田療法とは例えるなら漢方薬のようなものです。「原因の撲滅」でなく「体質改善をする」というところでしょうか。良い部分を伸ばす治療法です。

あなたの発表のもう一つの注目点は「生きることへの執着を感じさせる治療法である」と言っている点です。これは生の欲望が潜在している状態から顕在化することの言い換えでしょう。
また「人間性の回復」と言い換えることも出来ると思います。この言葉には、仕事でボロボロの状態から森田療法における人間らしい生活を送ることにより本来のあなたの姿が現れた過程が表現されていると言えます。
あなたにとって会社とはハードな場、森田療法は程よい作業の場・息抜き的な場と捉えることができます。森田療法の場とは、ハードな生活の人はレベルダウンすることにより程よい作業を行う場となり、引きこもりのような人にとっては生活がレベルアップすることにより程よい作業の場となるという特徴があります。
どちらの場合でも「ほどよい作業の場」となり生の欲望が出てくるということが森田療法の長所であるといえます。あなたもこの点を発表の中で指摘していましたね。

あなたは森田療法を「立派な医学療法」と発表の中で言っていますが、私は必ずしも医学療法である必要はないと思います。各自のお役に立てば医学であろうと無かろうとどちらでも良いと思います。森田療法は最近、教育界など医療以外の分野にも応用されています。

また、あなたは「刺激を感じる開放空間から全く刺激のない閉鎖空間に飛び込むことで身体を回復しそれが生の欲望につながる・何も特別なことはしない」と言っていますが、これらは的確に森田療法の臥褥を表しているといえます。森田療法は当たり前のことをするだけですが、神経症の人にとっては「新鮮なこと、久しぶりのこと」なのです。
健康人には自然に無意識に行われていることを、神経症の人たちに人工的に入院治療で行うのが森田療法です。

あなたの「日に日に生に対する喜びをあたえる」という言葉は森田療法の教科書にある「日新又日新」にあたります。あなたは身をもってこれを理解したのでしょう。こういったことを身をもって体験できたことはとてもよいことです。
退院後もここでの生活リズムを忘れずに過ごしてください。完全でなくてもよいですから心の片隅に置くだけでも違ってきます。森田での生活リズムをすることを目標として、7、8割くらいを達成する気持ちでこれからの社会生活を送ってください。

退院後が本番です。頑張ってください。

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