メニュー

森田療法

三島森田病院で実施されている「森田療法」の情報をご覧いただけます。

森田療法の説明

1.森田療法とは

1920年頃、森田正馬が創始した、神経症に対する我が国独自の精神療法です。
森田正馬の分類によると、神経症には①強迫観念症……対人恐怖(社会不安障害)、不潔恐怖・確認癖・雑念恐怖など(強迫性障害)と、②発作性神経症……動悸、呼吸困難感、めまい感などが発作的に出現して外出や乗り物に対する不安が増大するもの(パニック障害)と、③普通神経質……不眠、頭重感、書痙、胃部不快感など(身体表現性障害)があります。これらの症状に対して、①症状は人間普遍的なものとしてあるがままに受容して、②当面の現実生活においてやるべきことを目的本位に行うことにより神経質性格を生かしていく、というのが森田療法の治療原理です。
 

森田療法は元来は神経症を対象とした治療法ですが、最近では、うつ病、統合失調症、アルコール依存症など種々の疾患に適応が拡大しています。

治療形式には入院治療と外来治療があります。入院治療は森田療法の原点というべきもので、「原法」(森田正馬自身が施行した森田療法)では、森田正馬の自宅に患者が住み込むという形式が取られました。入院治療は体系化されており、次の4期に分けられます。
 

①第1期(臥褥期):1週間個室で過ごし、洗面・食事・排泄以外終日安静臥床の姿勢を取るもの。症状に直面し、受容する態度を形成し、作業療法にスムーズに移行させる意味があります。典型的には、安静 → 煩悶 → 退屈 の経過をたどります。

②第2期(軽作業期):起床して作業を開始しますが、激しい運動を制限するもの。外界を観察し、活動意欲を刺激させる意味があります。
 

③第3期(重作業期):すべての作業に従事するもの。症状があっても目的本位に行動していくという現実的態度を形成させる意味があります。

④第4期(生活訓練期):社会復帰の準備期間で、外出・外泊も実施されるもの。

2.当院の森田療法の歩み

当院は昭和34年に開設されましたが、当初から入院森田療法を施行しています。初代院長の森田秀俊は森田正馬の養子であり、森田正馬の晩年に付き添っていた田原あやが指導員として30年以上勤務したこともあり、従来当院の森田療法は比較的原法に近い形で行われてきました。最近は、浜松医大出身の医師が中心となって行われていることもあり、新しい病棟行事も取り入れられており、原法の伝統と大学病院的要素が折衷しています。

3.当院の森田療法の現況

 

  1. 病床数:定床は10床(4人部屋2室、個室2室)です。ときに森田療法以外の方も入院します。通常、森田療法は3~8人程度で行われています。
  2. 期間:通常3~4ヶ月間ですが、症状や退院後の予定により、期間は多少増減します。
  3. 投薬:従来森田療法は薬を使わない治療法として有名でしたが、最近は薬物療法の進歩もあり薬物療法を併用する場合も多くなってきました。しかしその場合も、結果として入院前よりも減量できる場合が少なくありません。
  4. 健康保険:健保適用です。ただし個室は差額料金を要します。

4.当院の森田療法の実際

① 臥褥:トイレ、洗面所の備えられた個室にこもり、一切の気晴らしをせず、安静臥床の姿勢で1週間過ごします。

② スケジュール:軽作業期以降、起床6時、門限20時、就寝22時となっています。
 

③ 作業:個人作業と共同作業があります。個人作業は、主に病棟各所の掃除で、毎日朝夕の当番が決められて、一人一人分担して行われます。共同作業は主に農作業(雨天時は木工作業)です。平日(土曜午後と日祭日除く)の午前と午後、指導員のもとに患者全員で行われます。入院1ヶ月以上の者は1週間交代でリーダーとサブリーダーに就任します。

④ 診察:週1~2回主治医との個人面談が行われます。また週1回、集団精神療法が行われます。これは医師や看護師等のスタッフと患者全員とで森田療法の読書会、講義、自己紹介などを行うものです。
 

⑤ 日記指導:軽作業期から退院まで毎日行われます。縦書きで1行おきの記載というのが当院の日記の特徴です。
⑥ 茶話会:約1~2ヶ月毎開催されます。森田療法患者全員でデザートを作り、医師・看護師・作業療法士などの治療スタッフを交えて一堂に会食します。患者の代表者が「体験発表」をし、治療者が講評します。各患者が体験発表、調理、司会、会計の係を担当します。

 

TOPIC:スヌーピー70周年記念・ペイントフェスタ参加決定

1950年、米国の漫画家シュルツによって描かれ始めたスヌーピーですが、今年、その生誕70周年を祝う様々なイベントが世界各地で行われています。

これに関連し、病院にアートを飾る活動をしている米国アトランタのホスピタル・アート財団が、スヌーピーの絵画パネルを世界の病院に贈る催しを企画しています。

日本ではこの度当院が協力病院として選ばれ、入院森田療法の活動内で絵画作成を行うこととなりました。

作品の完成後、当サイトにて掲載しますので、どうぞ楽しみにお待ちください。

 

TOPIC:入院森田療法で絵画パネルを作成しました

米国のホスピタル・アート財団からスヌーピーの絵画パネルが当院に贈られてきました。

当院の特色である入院森田療法の活動内で、絵画パネルを作成いたしました。

線が描かれているだけのパネルに、アクリル絵の具を皆さんで手分けして塗りました。

どのような手順で行うかは、メンバーで話し合って決めました。

 

ウッドストックも綺麗に塗られて笑顔です。

 

  

皆さん、作業に没頭することができていました。

 

午前、午後と1日を使ってパネルが完成しました。

パネルを展示するボードも集団療法内で作成し、完成品は当院の外来に展示する予定です。

どうぞお楽しみに!

 

森田正馬記念館

こちらでは森田正馬の写真や色紙など、ゆかりのある品を紹介します。
(尚、現在病院内に設けられている森田正馬記念館は非公開となっております。一部分を当院1階にあるギャラリーにて陳列しています。)

自画像写真

どちらも昭和6年6月頃に撮影された森田正馬の自画像です。

左側が昭和8年10月頃、右側が昭和10年6月頃に撮影された森田正馬の自画像です。

色紙

森田正馬は、神経症の治療の際に用いる言葉をよく色紙に書きました。著名な禅僧の言葉を自分なりに解釈しなおして神経症者の指導にあたることもしばしばあり、座右の銘にふさわしいものも少なくありません。

懐中時計と日記帳

中央の田原綾氏による説明書の内容を下に記載します。

この時計は森田正馬が本郷にゐてまだ丈夫な時 本郷の時計屋の見本にだしてあったものです。
この時計がほしくて譲ってくれるよう懇願したが これは見本だからどうしても駄目だと言うのを何回も何回も言って求めたものです。外出の時など電車の中でゆうゆうとポケットから出して 人目につく様に見せ車中の人が大笑いするとうれしそうにニコニコしながら ゆうゆうとしまわれた時計です。
これには はずかしくて一緒に行くのをいやがった患者やついて行くのを逃げ出した人など色々エピソードがかくされてゐます。今はいくらうごかそうと思ってもうごいてくれず 床の間で私たちを見守ってゐます。
今日は皆様と何かをかたりたいのではないかと 思います。

田原 綾

◎田原綾氏はその当時、森田正馬の女中として生活をしており、森田療法にも関わっていました。正馬が亡くなった後にはその養子であり、また三島森田病院の初代院長である森田秀俊氏の下、病院に従事し、森田療法を実践されていたそうです。この方は亡くなるその日まで森田療法の指導員として、治療を受けている方と共に生活をしていたとのことです。

ワンポイント森田

当院では古くから入院森田療法を行っており、現在では数少ない森田療法の入院施設として知られています。森田療法は本来、神経症(不安障害)が治療対象ですが、うつ病の回復期や慢性期の治療に適していることも少なくありません。大都市の精神科クリニックではリワークを目指すうつ病の方のデイケアに森田療法的アプローチを導入する動きも出てきています。

当院では病院が移転した平成15年よりデイケアを行っています。毎週、生活能力や適応能力向上を目指した教育プログラムを行ってきました。平成28年にはそのうち月1回を「日常生活に生かせるワンポイント森田療法」というプログラムを行ないました。当院デイケアの利用者様の多くが統合失調症ではありますが、日常生活において森田療法的アプローチが有効な場面が多々あるように思います。また、一般の方々のメンタルヘルスにも有益かと思いますので、毎回の内容を御紹介していきます。

こちらでは森田療法の認定医である医師が、当院デイケアにおいて行った日常生活に活用できるワンポイント森田の紹介をします。

各回のテーマ

第1回  緊張して困る時
第2回  眠れなくて困る時
第3回  意欲がわかない(やる気がしない・仕事に行きたくない)時
第4回  腹がたってしかたがない時
第5回  苦手な人・嫌いな人(家族以外)への対処法
第6回  苦手な家族への対処法
第7回  劣等感に悩む時
第8回  人の目(噂)が気になる時
第9回  悪夢が気になる時
第10回 将来の不安に悩む時

第1回 緊張して困る時

まず、デイケア利用者の方々に、緊張して困った体験について述べていただきました。緊張する場面としては、

  • 就職の採用試験の面接の時
  • 新しい仕事を始める時
  • 覚えたばかりの仕事を「じゃあ一人でやってみて」と言われた時
  • 仕事で電話に出る時
  • 学校のテストの時
  • スポーツの試合の前
  • 満員電車に乗る時
  • 歯医者さんで治療を受ける時
  • 精神科の診察の時

などが挙げられていました。
それでは、そういった緊張に対してどのように対処しているかについてお聞きしてみました。

  • 考え過ぎない、心を落ち着かせる
  • 集中できることをして気を紛らわせる
  • 考え尽して冷静になる
  • 楽しかったことを思い出す
  • 緊張している自分を受け入れる
  • 人(上司や周囲の人など)に相談する
  • 体を動かす
  • CDを聴く
  • 呼吸法、筋弛緩法をやってみる

といった意見が出ました。

森田療法的アプローチによる次の一手

緊張して困ったという経験はどなたもおありだと思います。昔から緊張しないおまじないとして、手のひらに「人」を指で書いて飲み込む真似をするというのを御存知の方もおられるでしょう。ノルウエーの作曲家グリーグは演奏会でピアノ演奏や指揮をする直前の緊張した時に、ポケットに入れたカエルの置物を握りしめたといいます。元力士・高見盛さんはとても緊張しやすい人で、塩撒きやロボコップのような動作は集中力を高める儀式だったようです。元ラグビー選手の五郎丸さんのキック直前の動作「ルーティーン」も同じようなものなのかもしれませんね。また、近年のスポーツ界ではうまくいくことを何度もイメージするイメージトレーニングもよく行われています。

けれども、緊張をなくすことはできません。それは一流のスポーツ選手でも俳優や歌手でも演奏家でも同じです。そうしたプロフェッショナルの方々に言わせるとむしろ緊張がない時は調子が悪い時で大きな失敗をしやすいという話もあります。うまくやりたい、成功したいという願いが強ければ強いほど緊張するものであり、緊張はあって当たり前なのです。緊張をなくそう、と思えば思うほど、緊張することが気になって、さらに緊張を高めてしまう、という悪循環に陥ります。それに例えば面接の場面で緊張するのは純情な証拠であって、思っているほど悪い印象は与えないものです。緊張しても目的が果たせればそれでよいのです。ですから、緊張したりあがったりしても、これは正常なことなのだ、と考えて、あえて緊張をなくそうとせず、どうにもならないのだからと開き直って行動していけば、注意が自分の方向でなく外へ向くようになって、いつかスッとラクになります。森田療法では「あるがまま」ということがよく言われます。しかしこれは、泰然自若として何があっても全く動じない、ということではありません。ハラハラドキドキ緊張しながらも周囲に注意を払いながら必要な行動を取っていけば、それが「あるがまま」になっているのです。

第2回 眠れなくて困る時

どんな方でも眠れなくて困った経験はおありだと思います。特に精神疾患のある方では不眠の症状に悩まされている方が少なくありません。当院デイケアに通所されている方々にも睡眠薬を服用されている方がおり、主治医の先生と相談して調整してもらっているようです。
参加者の方々に眠れなくて困る時の対応法をお聞きしてみました。

  • 風呂にゆっくり入ってから布団に入る(3人)
  • 体を暖める(3人)
  • リラクゼーション系の音楽を聴く
  • 昼間日光に当たる
  • 夕方以降はカフェインを取らないようにする
  • 起床時刻を一定にする
  • ストレッチをする
  • 日中に運動する
  • 甘いものを食べる
  • 仏壇にお祈りして心を休める

皆さん、いろいろな対処法を試みておられますね。

睡眠薬は確かに寝つきを良くしたり熟眠できる効果がある反面、翌日に眠気が残ってボーとしたり不自然な睡眠パターンになって夢ばかり見て疲れたり減薬しようとすると眠れなくて困ったりするといった問題があります。また、特に短時間型の睡眠薬は中止しにくく、やめた時に反跳性不眠に悩まされやすいです。
よく、寝酒と言いますが、お酒を飲んで眠ると睡眠の質が悪くなって途中で目が覚めて眠れないといったことが起こりやすくなります。特に睡眠薬とアルコールの併用は有害な場合が多いです。
一般的には次のような方法が不眠に効果があるとされています。

  1. 寝る前のカフェイン摂取や喫煙は避ける。
  2. 風呂はぬるめが良い(熱いと覚醒してしまう)。軽い読書、音楽も良い。
  3. 日中は明るい自然光を浴び、体を動かす。夜はTVやパソコン・スマホ画面を見続けない。
  4. 毎日同じ時刻に起きるようにする(休日だからといって遅くまで寝ていると次の朝が起きにくくなる)。
  5. 昼寝は30分以内にとどめる。

森田療法的アプローチによる次の一手

森田療法では「眠りは与えられただけとる」ということをよく言います。眠らないと明日に差し支える、などと考えて、眠ろうとすれば、ますます眠れなくなるものです。眠れなくても体を休めればそれでよいのだ、というつもりで横になればいいのです。
「自分は一睡もしていない」という人でも家族から見れば眠っている、ということはよくあることですし、睡眠脳波は出ていてちゃんと疲れが取れている、ということもあります。眠ろう、眠ろう、とする過度の努力をやめたら案外眠れるものなのです。
参考までに、森田正馬先生は、次のように言っておられます。80年以上前に言われた言葉ですが、薬物療法に偏りがちな現代の治療にも言えることかもしれません。

【自然良能を無視するの危険】例へば不眠を訴へる患者に対して、多くの立派な医者が、之に徒らに、催眠剤を種々撰定して与へる事がある。而かも患者の不眠は、少しも良くはならない。この医者は単に不眠の治療といふ事にのみ捉はれて、其人間全体を見る事を忘れたがためである。其患者の毎日の生活状態を聞きたゞして見ると、豈に計らんや患者は、毎日・熟眠が出来ないといひながら、十二時間以上も臥褥し、五時間・七時間位も睡眠して居るのである。多くの医者は不思議にも、其患者の日常の生活状態や、何時に寝て・何時に起き・其間に如何に睡眠が障害されるか・といふ事を聞きたゞさないで、患者の訴ふるまゝに、不眠と承認して、之に催眠剤を与へるのである。(白揚社:森田正馬全集第7巻 p.401)

第3回 意欲がわかない時

朝、仕事や学校に行くのがつらい。そんな経験はどなたもあることでしょう。会社や学校でも頭や体が重い感じがする。主婦の方の場合、家事をするのが億劫に感じてやる気が起きない、買物に出かけるのが苦痛、というようなこともあるでしょう。特に休み明けの月曜日は辛いものです。日曜日の夕方あたりから明日のことを考えると憂鬱になるという人もいて、「サザエさん症候群」(日曜の夕方、サザエさんのアニメが放送される頃から具合が悪くなる)とも言われています。海外ではBlue Mondayと呼ばれていますから、日本人だけでなくどこの国でも状況は同じなのでしょう。
デイケアに参加している方々に聞いてみると、そうした経験はほとんどの方にあるようです。ディスカッションしてみて、意欲がわかなくて困っているのは自分だけではなくて皆そうなんだとわかってよかった、という意見がありました。

講義の中では、自由律の俳人、種田山頭火(1882-1940)の句を紹介しました。山頭火は裕福な家に生まれましたが、子供の頃、父親は家を省みず悲観した母親が家の井戸に身を投げて自殺したのを目にして、大きな衝撃を受けます。神経症のため大学は中退。アルコール依存症となり、生活が破綻して離婚。托鉢しながら全国を流浪します。どん底の中で作り出した俳句は今なお多くの人に共感され、特にうつに悩む人々の助けになっているそうです。
「どうしようもないわたしが歩いてゐる」   「まっすぐな道でさみしい」
「捨てきれない 荷物のおもさ まへうしろ」 「生死(しょうじ)の中の雪ふりしきる」
「この道しかない 春の雪ふる」       「だまって今日の草鞋(わらじ)履く」
気分が重い、仕事に行くのがつらいなあ、と思いながら、とりあえず靴を履いて玄関を後にする。先の心配をしても仕方ありません。できることを少しずつやっていくだけです。

森田療法的アプローチによる次の一手

やる気がしないままに、まず一歩前進してみる(少しでもよいから仕事に手を付けてみる)。行動していくうちに、気分は後からついてくる。
これは私にもあります。気が重い仕事は敬遠したくなります。しかし、どっちみちやらなくてはならないのですから、とにかく少しでも手を付ける。そうすると、一歩が二歩に、二歩が三歩に、少しずつ進んで行くのです。やる気がしないままにやっていても、出来上がってくれば達成感が得られて気分も変わってくるものです。
森田正馬先生は次のように言っておられます。

苦しいながら、我慢して勉強するのを、柔順という。その柔順は、初めは、ほんのふりをするだけでも、ともかくも、実行しさえすれば、心のうちの感じは、どうでもよい。これを気分本位を捨てて事実本位になるというのである。(白揚社:森田正馬全集 第5巻 p.409)  

森田先生が好んで色紙に書かれた言葉に「日々是好日」(にちにちこれこうじつ)というものがあります。唐の禅僧・雲門禅師の言葉であり、そのままの意味は「くる日もくる日も良い日である」ということですが、今この一瞬を大事にし、つらいことや悲しいことも受け止めながら一日一日を生きていこう、ということなのです。森田療法の立場では、仕事や勉強で充実した一日が過ごせればそれは良き日であり、そうでなければ悪しき日である。その間の気分の良し悪しは問題ではない。気分はさておき、行動していき、充実した日が過ごせるようにしよう、ということになります。

第4回 腹が立ってしかたがない時

今回のテーマは腹が立って仕方がない時の対処法です。よほど仏様のような人だとか、ボーとしている人でない限り、誰でもムカッと来ることがあります。参加者の皆さんに聞いてみると、やはり、周囲の人の言動や行動に腹が立つ場面が多いようですね。でも、その立腹の原因となっている人に文句を言うと、言い返されてさらに腹が立つ、という悪循環に陥る可能性が高いです。また、物に当たり散らすようなことをしても怒りを長引かせるだけです。ヤケ食い・ヤケ酒も健康上よろしくありません。

森田療法的アプローチによる次の一手

怒りの気分はそのままにしておいて、やらねばならない仕事に手を出していく。
森田先生は出身地である土佐の武士に伝わる教訓として、「腹が立った時には3日待て」ということを述べておられます。3日経っても怒りが収まらないのはよほどの時であって、たいていは時間が経つにつれて怒りの感情は薄らいでくるものです。さらに森田先生は「感情の法則」を提唱されています。

森田先生が提唱された「感情の法則」

  • 第一法則 感情はこれをそのままに放任すれば、時を経るに従って自然に消失する
  • 第二法則 行動しているうちに感情は消失・変換する。
  • 第三法則 感情を続けて刺激し、発動すれば、ますます強盛となる。

ここで「第二法則」の「行動」とは仕事・家事・勉強など日常生活で必要な行動のことです。感情にまかせて怒鳴ったり物に当たったりすれば「第三法則」の通りになってしまうのです。

参考までに、現代では「90秒ルール」と呼ばれる怒りへの対処法があります。
最近の脳科学の研究から、怒りの感情が沸き上がった時に脳内に放出された化学物質が起こす反応は90秒以内に収まるので、怒りを感じたら90秒間何とかやり過ごす(例えばトイレに行ってくるとか、外の空気を吸ってくるとか)とよいということです。森田先生は脳科学のまだなかった時代に「感情の法則」をまとめておられるのは優れた観察眼によるものでしょう。

第5回 苦手な人・嫌いな人(家族以外)への対処法

職場や学校などでの対人関係に悩むことは多かれ少なかれ誰にもあることです。そこで、今回はその対処法について考えてみましょう。なお、家族間の人間関係の悩みは次回で取り上げることとします。

まず、デイケア参加者の方々にそうした経験を語っていただきました。

  • 上司が権力を使っていじめる(「バカ!」と怒鳴ったり、殴ろうとしたり)。(3人)
  • 人の悪口を言ったり人格否定したりする上司・同僚が職場にいて困る。(3人)
  • ああしろ、こうしろ、と命令したがる人がいる。
  • しつこくいろいろ言ってくる人がいる。
  • 自分になりすましてラインを使う人がいる。(2人)
  • 何度もメールをしてきて困る。
  • 必要以上にいろいろ聞いてくる人がいる。
  • 体を触ってくる人がいて困る。

といった経験が語られ、「自分もそういう経験がある」と共感する意見が多数出ました。

それでは、どのように対処しているか聞いてみました。

  • 無視する。距離を置く。必要最低限の関わりに留める。(7人)
  • すべての人に好かれなくてもいいんだ、と考える。
  • プラスの方向で考える。
  • いろいろな人に相談する。
  • 挨拶だけする。
  • スルーして許す。
  • 転職する。

悪口や嫌がらせに対しては、相手にせずに受け流して、相手との距離を置く、といった対処が一般的です。パワハラやセクハラについては一人で悩んでいないで人に相談してみることも有益です。職場の問題の場合、転職するというのが最終手段ですが、どこの職場にも困った人や嫌な人はいるものです。

森田療法的アプローチによる次の一手

森田療法的な対応法としては、苦手な人・嫌な人に対しても挨拶をし、当たらず触らず会釈笑いし、お世辞の一つも言ってみる、ということになります。森田正馬先生は次のように言っておられます。

私のやり方は、何かにつけて、すべて「感じから出発する」「自然に服従する」という事を会得すればよいのです。(中略) それで我々は、人と交際する時に、それが性格が違おうがなんであろうが、自分の直接の感じのままに、好きは好き・面憎いは面憎いで、そのままに交際していけばよい。嫌いだからといって、かならずしも「私は貴方が面憎いから、お断りしておきます」とか、いちいち挨拶をする必要もない。当たらず触わらず、会釈笑いでもしていればよい。この会釈笑いというものは、我々が人に対する社交的の自然の反応であって、自分の心に不快があっても、人と応対すれば、これを隠そうとして、かえって著明に現れる事があるという事は、誰でも自覚し得る事であろう。その自然のままでよいのである。それで、面憎いままに、じっと自分の心を持ちこたえている事を、私は「自然の感じのままに服従する」と称します。しかし相手は、同窓生であるから、挨拶くらいはしておいた方がよかろうと考えて、お世辞の一つもいうのを、私は「境遇に柔順」と称するのであります。たったそれだけでよろしい。

この際に、自分は「人を憎んではならない」「人は愛であれ」「敵を愛せよ」とか、いろいろの教訓を引き合いに出して、我と我心を撓め(ため:「矯め」の意)直そうと反抗するのを、私は「自然の感情に服従しない」と称する。
これと同時に、自分はあの憎らしいのが、不愉快だから、彼に会う所へは行かないとか、話しかけられても、応対もしないとかいえば、それはわがままであり、「境遇に柔順でない」と称するのである。(白揚社:森田正馬全集 第5巻 p.568-570)

「気に入らぬ風もあろうに、柳かな」という事がある。「今度あの風が吹いたら、こんな風に靡(なび)いてやろう」とかいう態度が少しもなく、柳の枝は、その弱いがままに、素直に境遇に従順であるから、風にも雪にも、柳の枝は折れないで、自由自在になっているのである。(森田正馬全集 第5巻 p.318)

森田先生が引用したこの句は江戸時代の禅僧・仙厓(1750-1837)の作であり、強風に対して枝を靡かせて受け流す柳の絵「堪忍柳画賛」は出光美術館に収蔵されています。一代にして出光興産を作り上げた出光佐三(1885-1981)も若い頃には神経症の症状に悩んだことがあるそうです。海賊とも呼ばれ大胆不敵に思われていた佐三ですが、回想録に「外部の圧迫を受けるたびに、仙厓和尚の書画を見た。世俗にこびざる名僧の教えを受け、ひるむ心に鞭を打ちつつ家を出た」と記しています。佐三は自分の写真の代わりにこの絵を全国の各支店に掲げさせていたといいます。
人間関係で辛い時には、自然体で強風を受け流す柳の姿を思い浮かべてみるのも良いでしょう。

第6回 苦手な家族への対処法

前回は、家族以外の苦手な人や嫌いな人への対処法を取り上げました。今回はそれが家族の場合です。今回も参加者の方々に体験を語っていただきました。要約すると次のようなものです。

  • 家族が自分に暴力をふるう。
  • 家族とケンカしてしまう。
  • 家族とほとんど口をきかない。挨拶もしない。
  • 家族からの小言が多い。

それに対してどのように対処しているか、という話では、

  • 距離を置く。間合いを取る。
  • (嫌なことを言われても)聞き流す。
  • 気にしないようにする。
  • 家族に怒られないように話しを聞いたり家事を手伝ったりする。

というような内容が多かったですが、やはり家族では難しい面がありますね。

家族の場合、他人と比べると

  1. 長期間、1日のうち長時間、同じ空間にいる。
  2. 過去の長い経緯がある。
  3. 職場の問題ならば転職によりリセットできるが家族関係はリセットできない。
  4. 親ゆえの欲目→もっと働けるはずだ、きちんとできるはずだ、という思い
    子ゆえの甘え→もっと優しくしてほしい、わかって欲しい、という思い、がある。

という条件が加わるので、一層関係がこじれやすく、問題が長期化しやすいということがあります。

森田療法的アプローチによる次の一手

相手は変えられない、何とも仕方がない。そこで、自分の行動を変える。
「自然に服従し、境遇に柔順(従順)なれ」(森田正馬)

「置かれた場所で咲きなさい」という言葉をどこかで聞かれたことがあるかと思います。この題名の本を書かれた渡辺和子(1927-2016)さんは岡山県のノートルダム清心学園の理事長でカトリックのシスターでした。9歳の時に二・二六事件が起こり、目の前で父親が青年将校たちに射殺されています。聖心女子大さらに上智大学大学院で学び、わずか36歳にしてノートルダム清心女子大学の学長に就任しましたが、一生懸命に学生たちを指導していく中で自らも、うつ病に陥ってしまいました。
そんな渡辺さん自身を救ってくれたのがこの言葉です。カトリックの神父さんから聞いた言葉なのだそうですが、森田療法のベースになっている東洋思想と共通しているのは面白いですね。

家族関係の問題解決は簡単ではありませんが、今まで学んだ森田的アプローチを組み合わせて応用していくと効果的です。何か言われてムカッとして言い返せば相手も不愉快になってさらに言ってきます。そうなると悪循環に陥ってしまいます。ですからムカッときた時には感情の法則(第3回)を思い出しましょう。そして、前回(第5回)のように、家の中でも、しっかり挨拶する、何かしてもらった時には「ありがとう」を言うことも大切です。そして気分が乗らなくても(第4回)、家族のために少しでもできることをやってみる(風呂掃除やトイレ掃除をするなど)ことで、自分も達成感が得られるばかりでなく、家族の評価も好転し、関係改善に役立つことでしょう。
一朝一夕に解決するわけにはいきませんので、粘り強く続けていくことが大切です。

第7回 劣等感に悩む時

まず、デイケア利用者の方々に、劣等感についての体験について述べていただきました。中には「劣等感はない」という方もいましたが、ほとんどの方は劣等感に悩んだ経験を持っておられました。

  • 運動神経が鈍い、数学が苦手
  • 弁の立つ人が羨ましい
  • 自分より楽しんでいる人や成績の良い人を見ると劣等感を感じる
  • 正社員になれない、自分よりも若い正社員の人を見ると「負けた」と感じる 
  • 学歴や経歴で他の人と比較して落ち込む
  • 婚期が遅れていること
  • 年齢を重ねているのに何もできないこと

などが挙げられていました。

それでは、そうした劣等感に対してどのように対処しているかについてお聞きしてみました。

  • 他人の良さを素直に認める
  • 自分を好きになる
  • 自分の良い所を考えてみる
  • できないことでなく、できていることに目を向ける
  • 人は人、自分は自分、マイペースでいこう
  • 人と自分を比べ過ぎない
  • 仕方ないとあきらめる

といった意見が出ました。

「隣の芝生は青い」「隣の花は赤い」という言葉のように、人の物は立派に見えるということは起きやすいですね。
また、特に内向的な人は自分の能力や性格などを他人と比較して自分はダメだと考えてクヨクヨ悩みがちです。劣等感への対処には様々なパターンがあります。

  1. 劣等感の対象となっている部分を努力して改善する。
  2. 他に得意な分野を伸ばす。
  3. 劣等感に対する認識を変える。→認知療法
  4. あきらめる。
  5. 劣等感を解消できる商品(例:身長が高く見える靴)や美容整形を利用する。
  6. 他の人を貶める。
  7. 意識しないように抑圧する。
  8. 逃避する(アルコールや薬物など)。

最後の3つは良くない方法です。最初の3つの方法が良いのですがなかなか難しい面もあります。

森田療法的アプローチによる次の一手

劣等感はあってよい。そしてそれを持ちながら工夫・努力をしていけば立派な人になれる。劣等感をエネルギー源として、発展・向上しようと建設的に行動していくのが森田療法のやり方です。森田先生は次のように言っておられます。

およそ何事にも偉くなるような人はみな劣等感をもち、へりくだった心から、自分の行いを慎み励んでいるものである。高ぶった心の人は、決して優れた者になる事はできない。私が色紙に書いたものに、こんな文句がある。
「金持は常に己れの財産の乏しきを思い、知者は常に己れの知能の足らざるを憂う。柔順なる人は常に自らわがままに非ずやと恐れ、善人は常に己れを悪人と信ぜり。貧者は常に己れのありたけの金を使い果たし、愚者は常に自分のありたけの知恵才覚をみせびらかし、不柔順なる者は常に己れがこれ以上の柔順ができるかと恨み、不善人は常に己れを誠実親切なりと信ぜり。」

己れを偉いと思い・よい人のように思う者にろくなものはない。(白揚社:森田正馬全集 第5巻p.741)

第8回 人の目が気になる

今回のテーマもよくあることです。デイケア利用者の方々に、経験を語っていただきました。

  • 失敗したり間違ったことをしたりした時、人の目が気になる
  • 緊張や不安がある時、孤立した時に気になりやすい
  • すれ違った車の運転者の目が気になる
  • 人ごみの中で、自分の容姿が劣っていると感じて人の目が気になる
  • 周囲のこそこそ話が自分のことを言っているのではないかと気になる
  • デイケアの送迎車に乗る時、近所の人に見られていないか気になる
  • 病気になってから人間関係がうまくできなくて、人の目が気になるようになった

などが挙げられていました。
対処法については、

  • 思っているほど人は見ていないので、気にしないようにする
  • 深入りしないようにする
  • オドオドしないように強気で乗り切る
  • 目を閉じてクールダウン、自分の世界に入る
  • 自分から挨拶する
  • 逃げる、避けるようにする
  • 仕方がないとあきらめる
  • 第三者の意見を聞いてみる

といった意見が出ました。

森田療法的アプローチによる次の一手

「気にしないようにしよう」とすればさらにこだわりが強くなってますます気になってしまう、という悪循環に陥ってしまいます。これは以前、緊張(第1回)や不眠(第2回)への対処法でお話ししたのと同様です。症状をなくそう、とする「はからいごと」が却って症状を増強してしまうのです。
そこで、気にはなりながらもその時その時やるべきことを探してやっていく、というのが森田療法的な対応法になります。

なお、これは統合失調症の方でよくある「バカ」「死ね」といった自分を非難するような不快な幻聴に対する対応法にも応用できます。幻聴は御本人にとってはリアルな声ですが、実際にはその人の脳の中で起こっている現象です。
幻聴に対して「うるさい!」「やめろ!」などと言ってしまうと、さらにそれに対する幻聴が発生するという悪循環が起こるのです。
そこで、不快な気分はそのままにして、声は相手にせずに仕事や作業に向かって行動しているうちに、幻聴も軽減してきます。

文豪の夏目漱石も時に幻聴があったり「監視されている」という妄想に悩まされたりしていました。漱石については統合失調症説、躁うつ病説などがあります。
しかし、著作に打ち込むことで症状は軽減していたようです。仕事自体が治療となっていたと考える学者もいます。

第9回 悪夢が気になる時

外来に通院しておられる方で、悪夢を見て困るという方が時々おられます。そこで、デイケア参加者の方々にもそんな経験についてお聞きしました。

  • 過去の嫌な場面が再現される夢
  • 家に帰ろうとしても帰れない、物がなくなっていくら探しても見つからない夢
  • 怖い人に追いかけられる、殺される夢
  • 家族とケンカしている夢
  • 学校や職場でプレッシャーをかけられる夢
  • 動こうにも体が動かない夢
  • 怖い夢を見た記憶があるが、朝になってみるとハッキリ覚えていない

などが挙げられていました。

筆者も、学生時代に戻っていきなり今日試験だと知って慌てる夢、仕事へ行こうとしてもどんどん山奥に迷い込んでいく夢、外でトイレを探すけれど行列ができていたり故障中だったりして見つからなくて走り回るという夢を見たりして、ハッと目が覚めて「ああ夢で良かった」と思うことが時々あります。
ピストルで撃たれて殺される夢を見たことも一度ならずありました。あるデイケアスタッフは、今でも試験の夢を繰り返し見る、と語っておられました。

ただ、参加者の皆さんの多くは、それほど気にしていないとのことでした。
私たちの睡眠は長いノンレム睡眠(深い睡眠で体も脳も休養していて簡単には目が覚めない)と短いレム睡眠(浅い睡眠で目が覚めやすく、脳は活動していてこの時に夢を見ていると考えられている)のセットを一晩に3-4回繰り返しています。
睡眠薬の中には睡眠前半のレム睡眠を抑制して後半のレム睡眠を増やすものがあって、「変な夢ばかり見る」「悪夢をよく見て困る」ということになりやすいです。アルコールも同様に睡眠のバランスを崩しやすいので注意が必要です。

また、古くから、「歯が抜ける夢は身内の人が亡くなる前兆で縁起が悪い」「蛇の夢を見ると金運に恵まれる」「火事の夢は縁起が良いが水の夢は縁起が悪い」といった夢に関する種々の迷信があり、とても気にする人もいます。

森田療法的アプローチによる次の一手

森田正馬先生は『夢ノ本態』の中で大久保彦左衛門の言として「迷いの中の是非は是非とも非なり 夢の中の有無は有無とも無なり」という言葉を紹介しています(白揚社:森田正馬全集第6巻p.48)。大久保彦左衛門の著書『三河物語』の冒頭に書かれているこの言葉は悪夢に悩まされる人にピッタリの言葉です。
いい夢を見ようが悪い夢を見ようが関係ないというのが現実重視の森田療法家の見方です。たとえ、夢見が悪かったとしても、それはそれとして、やるべき仕事や勉強や家事をやっていこう、ということなのです。そうしているうちに悪夢によって生じた嫌な感情はいつしか自然に消えていくものです。夢判断や夢解釈を行うフロイトの精神分析とは対極的です。

統合失調症などによる幻覚への応用

誰しも夢を見ている時はリアルなものとして感じられます。夢とは別のものではありますが、統合失調症などで起こる幻覚(特に幻聴)も本人にとっては極めてリアルなものであり、本人の脳の中で起きている現象であることは共通しています。
聞こえているけれども現実のものではない、と体験的に、あるいは周囲の人からの指摘でわかった時には、幻聴を相手にせずになるべく日常生活の必要な行動をしていくと、結果的に幻覚も軽減する場合が多いのです。
悪口の幻聴に反応して「うるさい!」「バカはお前だろう!」などと言うと、さらに新たな幻聴が発生する、という悪循環に陥りやすいです。

第10回 不安に悩む時

自分自身の健康や家族の健康についての不安、将来の経済的な不安はどんな人でも抱えています。実際に、デイケアに参加しておられる方々に聞いてみると、「経済的に不安」「将来、先行きが不安」「症状が悪くなるのではないか心配」「人間関係のことで不安になる」などといった意見が出ました。
仕事や家事や趣味のことなどで夢中になっている時には忘れていますが、一人でぼんやりしている時や夜に床に就いてから不安が頭に浮かんで気になってしまうことも少なくありません。

時には強い不安のために動悸や息苦しさといった身体症状が現れることもあります(不安神経症・パニック障害)。またなったらどうしようという不安(予期不安)がパニック発作を誘発しやすくしてしまいます。

森田療法的アプローチによる次の一手

森田療法でよく言われる言葉に次のようなものがあります。
「不安常住」
「不安はあるがまま」
「不安心即安心」→不安なまま行動していくうちに、不安はあってもなきが状態となる。
 不安をなくそうとジタバタしてもどうにもなりません。不安をなくすことはできません。不安のために身体症状が出ると、ますます自分の身体へ注意が向いてわずかな変化に敏感となって症状を強めるという悪循環に陥ります。
抗不安薬を飲んで一時的に不安感を軽くすることはできても不安が消えてしまうわけではありません。
人間にとって究極の不安は「死」です。残念ながら誰もが死から逃れることはできないのです。
それに不安は生活上必要なことでもあります。私たちは不安だから、災害に備えたり、貯金をしたり、保険に入ったりして、最悪の事態を回避することができるのです。試験や試合で失敗しないように繰り返し勉強や練習をして、よい結果を出すこともできます。
ですから、不安をなくそうとする不可能の努力」はやめ、不安を持ちながら今できる建設的な行動をしていく、そしてよりよく生きていこうとするのが森田式です。
不安はありながらも、まずは目の前にある、できることに少しでも手を出していく。そしてそれを積み重ねていく。そうすると、いつしか不安は流れる雲のように去って行くものです。

10回にわたり、デイケアで行った「ワンポイント森田」について御紹介しました。森田療法は本来、森田神経質(神経質性格を基盤とし自己洞察が可能で感情面でも比較的安定した人に起きる神経症)を対象としています。しかし、神経質はスペクトラムのようなもので、誰でも神経質な部分は多かれ少なかれ持っています。そして、誰にも不安は起きます。
普段は大胆な人でも何かのきっかけで人の目が気になったり強い不安に襲われたりすることだってあります。ですから、森田療法的アプローチは誰にも役立つ可能性があるのです。
生活の中で行き詰った時、これまで御紹介したワンポイント森田の方法を一つの対処法として試してみられてはいかがかと思います。

森田療法体験発表

茶話会は、平成11年9月から開始した三島森田病院の病棟行事で、月1回程度開催されます。
内容は、森田療法患者様全員でデザートを作り、医師、看護師など数名を交えて一同で会食するものです。その際、あらかじめ決められた患者様1名が「体験発表」を行い、医師など治療者が講評します。
体験発表は、主に退院の近い患者様が症状の起始、臥褥等入院後経過、森田療法の成果などを原稿にまとめ、5分程度で発表します。

この体験発表はご本人の承諾を頂き、匿名性に配慮した上、現在神経症症状等に悩まれている方々のために参考となるべく掲載したものです。

森田療法突撃レポート

森田療法突撃レポート一覧はこちら

森田療法突撃レポート [2020年1月1日20時02分更新]
森田療法突撃レポート [2020年1月1日20時01分更新]
森田療法突撃レポート(5)-3 [2020年1月1日20時00分更新]
森田療法突撃レポート(5)-2 [2020年1月1日19時59分更新]
森田療法突撃レポート(5)-1 [2020年1月1日19時58分更新]
森田療法突撃レポート(4)-3 [2020年1月1日19時57分更新]
森田療法突撃レポート(4)-2 [2020年1月1日19時56分更新]
森田療法突撃レポート(4)-1 [2020年1月1日19時55分更新]
森田療法突撃レポート [2020年1月1日19時53分更新]
森田療法突撃レポート(3)-4 [2020年1月1日19時52分更新]

 

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME